เข้าสู่ระบบ翌日。
私は騎士向けの寮を出て、宮廷内に移り住むことになった。 表向きは、二十歳の成人を前に殿下の身の回りを固め、護衛を強化する、という理由だった。 引越しを済ませて私は指定にいる皇太子殿下に挨拶へと向かう。 殿下は今学生で、普段は大学へ通っておられる。 今日は休日であるため、私邸にてお休みになられているはずだ。 私は、女官に連れられて皇太子殿下の私邸へと入る。 人の気配を感じない、とても静かな場所だった。 香、だろうか。 森の中のような匂いが漂っている。皇帝陛下の私邸とはずいぶんと違う匂いだ。 私は殿下とお会いするというので、着慣れない、紅の上衣にスカートを着てしまった。おかげで足のまわりが何だかすーすーしてしまう。 普段はズボンなのだから、気にせず普段着を着ればよかった。 居心地の悪さを感じつつ廊下を進んでいくと、女官がある扉の前で立ち止まる。 「殿下、ホ様をお連れいたしました」 「あぁ、入ってもらって」 穏やかな、少年のような声が中から響く。 「失礼いたします」 女官がそう声をかけると扉を開き、私に中に入るよう促した。 「失礼いたします、皇帝陛下の勅命により、本日よりツァロン殿下の護衛の任に着きました、紅雪華でございます」 名乗り、私は室内へと入る。 すると背中で扉がしまる音がした。 ここは、いわゆる居間、だろうか。 青い上衣を羽織った黒い髪の青年が読んでいた本を机に置き、長椅子から立ち上がる。 まだ幼さの残る顔。優しげな二重の瞳。 背は陛下より少し高いかもしれない。 長く伸びた黒髪を後頭部で縛った彼は、頭を下げて言った。 「ツァロンです。今回はお手数をかけいたします」 その物言いに、私はたじろいでしまう。 彼は次期皇帝だ。 威厳に満ち、見る者を魅了する皇帝陛下とはずいぶんと違う。 姿は似ているが、なんだろう。まとう空気や声の質が、違うものに思えた。ずいぶんと柔らかな空気をまとっている。これで皇帝になるのか? 少し不安になるのだが。 驚きのあまり固まっていると、殿下が自分の前にある長椅子を示して、 「どうぞ、こちらに」 と、声をかけてくる。 「し、失礼いたします」 そう、震えた声で答えた後、私は殿下の前にある椅子に近づいた。 「おかけください」 「はっ」 殿下が座るのを待ってから、私も椅子に腰かける。 するとすぐに扉を叩く音がした。 入ってきたのは先ほどの女官だった。 どうやらお茶を持って来てくれたらしい。 「こちらをどうぞ」 と、湯気があがる湯呑と、青い皿を机の上に置く。 皿の上にはお菓子がのっていた。 かりんとう、だろうか。甘い匂いがわずかに香る。 「戦場から帰ったばかりなのに、申し訳ないです」 女官が去った後、殿下が再び頭を下げた。 これはどうしたらいい。 こんな対応は初めてで戸惑いばかりだ。 「あ、え、あ、頭をお上げください。私も仕事ですから。それに」 そこで言葉を切り、私は息をすっと吸う。 部屋に漂う、僅かな爽やかな香りが、少しだけ気持ちを落ち着かせてくれるような気がした。 「皇帝陛下の勅命でございますから」 そう言葉にすると、背筋がぴんと、さらにのびるような気がした。 殿下はなんとも複雑な表情を見せた後、 「父上……」 と呟き、視線を落としてしまう。 その様子に違和感を覚えたが、そこは私が立ちいるべきものではないだろう。 そう思い、湯呑を手にした。 じわりと熱いお茶に、手が温まる。 「陛下から話は伺っております」 「そう、なのですね。彼女が殺されなくてはならない理由などないのに」 そう呟いた殿下からは、悲壮な空気を漂ってくる。 自分のせいで侍女が殺されたかもしれない。 そう思ったら気が気ではないだろうな。 「事件の詳細は伺っていないのですが……どういった状況だったのですか?」 「いえ……朝、起きてこないので女官が宿舎を見に行ったところ、すでにこと切れていたと」 「外傷は」 思わず出た声に緊張が走る。 殿下は首を振り、 「毒、だったそうです」 と苦しげに答えた。 毒殺。 どういう毒が使われたのだろう。 「あらそった形跡はなく、詳しい状況はわかっていなくて。ただ、宮殿内の出来事であり、僕付きの侍女のひとりでしたから……」 そこで言葉を切った。 「彼女にはもう孫もいて、その成長を楽しみにしていたのに」 殿下はそう言った後、目元に手をやった。 泣いているのだろうか。死んだ侍女のために? 皇帝陛下や殿下に着く女官は、年配の女性が多い。 妊娠する心配のない女性が選ばれるからだ。 護衛でもなければ私のような若い女が、おそばにお仕えすることはまずなかった。 そんな女官に心を寄せるとは。殿下はとてもお優しい心を持っていらっしゃるらしい。 ――陛下とはずいぶんと違う。 そんな想いが生まれ、私はその考えを打ち消すように大きく息をつきお茶へと口をつけた。 「そうなると、宮殿の中に暗殺者がいると?」 「えぇ、そう、なりますね。残念なことに」 とはいえ、容疑者はいったい何人になるか。 後宮の妃たち、女官、侍女、首相や大臣だって、宮殿には出入りできる。 しかも女官の寮だ。女性であればそこまで出入りは厳しくないだろう。 殿下を狙っているのでは、と仮定すれば話は別だが。 「とはいえ、なぜ殿下のお命を……?」 そこが理解できなかった。 後継者争い、とも思ったが、そもそも陛下に皇子はひとりしかいない。他は皆姫だ。 どうやって後継者争いが起きうる? 「不思議に思いますよね。でも僕はそう、思えないんですよ」 諦めたような顔で言い、殿下は私を見た。 「それどういうことでしょうか」 「父の放蕩は、貴方もご存じでしょう」 その言葉が、私の胸を鋭い刃のように抉る。 けれどそんなもの態度に出せるわけはなく、冷静に、私は頷き答えた。 「はい」 皇帝陛下の女遊びは昔から有名だった。 幼い頃、私が初めて新年の一般参賀の訪れた日もそんな噂話をしている人たちがいた。 後宮がありながら、外に何人もの女を囲い隠し子がいる、という噂がずっとある。 実際に、息子は皇帝の子供だ、と主張する者があとを絶たないと聞いた。 だけど誰も真に受けない。 皇帝陛下が一切認めないからだ。陛下が認めなければ事実ではない。 それが帝国の決まりだから。 「殿下は、陛下の放蕩が理由でご自分が狙われたと?」 慎重に言葉を選んで言うと、殿下は深く頷いた。 確かにそれならありうるかもしれない。 でも……それならなぜ直接殿下を狙わない? その時だった。 バタバタという足音と共に、勢いよく扉が開いた。 年配の女官は肩で息をしながらがたがたと震え、声を上げた。 「た、た、た、大変です!」 私はその言葉を聞き、ばっと立ち上がる。 肌が総毛立つ。何かよくないことが起きたと、頭の中で警鐘が鳴り響く。 「し、し。死体が……死体が……!」 「死体……?」 私は立ち上がり、女官に歩み寄る。 「死体とはどういうことだ?」 「ひ、ひとり時間になっても起きてこなくてそれで……起こしにいったら死体があったと……血がすごくて……」 がたがたと震えて言う女官は、そのまま床に座り込んでしまう。 「シュエファさん」 「はい」 私は殿下の呼びかけに頷き部屋を飛び出した。 後ろを足音が続く。 女官の寮はこの私邸から少し離れている。 警備を通り門を出て、庭を走る。 女官の寮に入る門にいる警備を通って、私たちは人の騒ぎを追って現場へと向かった。 「う……」 現場に入り、最初に目に飛び込んだのは血まみれの死体だった。 腹を裂かれた死体。 血の海でこと切れている、年配の女官は虚空を見つめていた。 「シュエファさん、壁……」 怯えた声で言う殿下の声に私は顔を上げた。 すると、白い壁に赤黒い血でこう書かれていた。 ――『次は、お前だ』 それを見て、私は顔をしかめる。 なんてことだ。 皇太子殿下護衛就任早々、殺人が起きるなんて。 ――気に入らない。 私はぎゅっと拳を握りしめて、忌々しく血文字を見つめた。宮廷内で起きた殺人事件はふたつ。 一件目は毒殺で、内々で処理された。 二件目の死因はまだわからないが、腹を切られ、血の文字で壁に警告が描かれていた。 ふたつの殺人事件。あまりにも手口が違いすぎるが。 そう思い、私は唇を噛む。 同じ犯人なのか。それとも別の犯人か? そう思い、私は殿下に声をかけた。 「殿下」「はい」「ひとりめの犠牲者の時は、あのような警告文はあったのでしょうか?」 私の問に、殿下は首を横に振る。「僕は現場を見ていないのですが、そういう話は聞いていないです」「そうですか」 その返答に私は首を傾げる。 そうなると、一件目の殺人は本当に殿下への警告だったのか? という疑問がわいてくる。 そもそも女官が狙いと言うこともないだろうか。 事件についていろいろと調べないといけないな、これは。 ひとり考え込んでいると、遠慮がちにかかる声があった。「何か、気になることがありますか?」 その言葉に私は肩をすくめた。「さあ、まだわかりません。ただ」 私は、不安げな顔をする殿下をじっと見つめる。「宮殿内に殿下を狙っている勢力がいるのは確かでしょう。女官を殺し、心理的に圧力をかけている。この私邸内だけでも、安全に過ごせるよう努めますので」「シュエファさん……すみません。貴方に危険が及ぶかもしれないのに」 申し訳なさそうに殿下は言い、俯いてしまう。 どうもこのお方と話していると調子が狂う。 皇族にとって臣民は駒でしかないだろうに。なぜ殿下は私や女官たちにまで心を寄せるのか。「私の仕事は殿下をお守りすることです。戦場に比べたらずっと安全ですよ」 そう言ってはみたものの、戦場の方がはるかに楽だ。 戦場では、味方以外は全員敵だから知らない相手は片っ端から殺せばよかった。 けれどここは、誰が敵かわからない。それは心理的にとても負担だった。「とりあえず殿下、ひとりでの行動は絶対にしないでください」「え、でも……」「殿下、この私邸、あいている部屋、ありますよね? 私の部屋、用意していただけますか?」 私が自分の部屋で寝泊まりなどできないと悟った私は、殿下にそう申し出ると、彼は神妙な顔で頷いた。「わかりました。部屋は……僕の部屋のそばに用意いたします。あの、そんなに……危険なんでしょうか」 不安からか、殿下のまつ毛が
バタバタと、たくさんの足音が近づいてくる。 「すぐに皆を別の部屋に連れて行け。ここは閉鎖する」 そんな男の声が廊下から聞こえ、私はハッとして振り返った。 入ってきたのは深い灰色の上衣をまとった男性だった。 二十代後半くらいか。肩口でそろえられた黒い髪に、一重の瞳。 羅悠然。宮殿の護衛団、華衛の団長だ。 彼は共に入ってきた護衛官たちに、テキパキと指示をだしている。「死体の検死を。室内に不審物がないか徹底的に調べろ」 ヨウラン殿の言葉の痕、開いていた扉がばたり、と閉まり、いっそう血の匂いが濃くなった。 鋭い眼光の彼は、私たちを見るなり膝をつき、頭を下げた。「ツァロン殿下。ここは貴方様のような高貴なお方がいるべき場所ではございません。速やかに、私邸へとお戻りください」「ヨウラン団長、亡くなったのは僕にとっても大事な女官のひとりだ。無関係ではないと思うが。それに」「殿下」 団長の強い口調に、殿下がたじろいだように半歩、下がってしまう。「だ、だが」 そう、喰らいつく殿下を無視して、団長は私の方へと視線を向けた。 射るような目で私を見た彼は、すっと立ち上がり言った。「ホ殿」「は、はい」「殿下を私邸にお連れ下さい」 低く、淡々とした声は反論を許さない、という響きを持っている。 彼の言う通り、このような殺人現場に殿下を長く滞在させるわけにはいかないだろう。 私は振り返り、殿下の方へと目を向けて言った。「戻りましょう殿下。現場を荒らすわけにはいきませんから」「しかし」「殿下」 まだ食いついてくる殿下に、思わず強い口調で呼びかける。「ここにいても、私たちにできることはございません」 私も殿下も、事件現場の捜査などできるわけがない。 ここは専門家に任せるべきだ。 私の言葉に殿下は悔しげに俯いて拳を握りしめた後、「わかった」 と絞り出すような声で答えた。 殿下を連れて私邸へと戻ると、警備の護衛官が増えていた。 屋敷の中も警戒に当たると言われ、私たちは居間で向かい合って座っていた。 女官が持って来てくれた新しいお茶を飲み、息をつく。 私の脳裏には死体の光景がこびりついていた。 私は何度も戦場を経験しているので、血の匂いにも死体にも慣れている。だが、あんな風にまじまじと死体を見たのは初めてだ
翌日。 私は騎士向けの寮を出て、宮廷内に移り住むことになった。 表向きは、二十歳の成人を前に殿下の身の回りを固め、護衛を強化する、という理由だった。 引越しを済ませて私は指定にいる皇太子殿下に挨拶へと向かう。 殿下は今学生で、普段は大学へ通っておられる。 今日は休日であるため、私邸にてお休みになられているはずだ。 私は、女官に連れられて皇太子殿下の私邸へと入る。 人の気配を感じない、とても静かな場所だった。 香、だろうか。 森の中のような匂いが漂っている。皇帝陛下の私邸とはずいぶんと違う匂いだ。 私は殿下とお会いするというので、着慣れない、紅の上衣にスカートを着てしまった。おかげで足のまわりが何だかすーすーしてしまう。 普段はズボンなのだから、気にせず普段着を着ればよかった。 居心地の悪さを感じつつ廊下を進んでいくと、女官がある扉の前で立ち止まる。「殿下、ホ様をお連れいたしました」「あぁ、入ってもらって」 穏やかな、少年のような声が中から響く。「失礼いたします」 女官がそう声をかけると扉を開き、私に中に入るよう促した。「失礼いたします、皇帝陛下の勅命により、本日よりツァロン殿下の護衛の任に着きました、紅雪華でございます」 名乗り、私は室内へと入る。 すると背中で扉がしまる音がした。 ここは、いわゆる居間、だろうか。 青い上衣を羽織った黒い髪の青年が読んでいた本を机に置き、長椅子から立ち上がる。 まだ幼さの残る顔。優しげな二重の瞳。 背は陛下より少し高いかもしれない。 長く伸びた黒髪を後頭部で縛った彼は、頭を下げて言った。「ツァロンです。今回はお手数をかけいたします」 その物言いに、私はたじろいでしまう。 彼は次期皇帝だ。 威厳に満ち、見る者を魅了する皇帝陛下とはずいぶんと違う。 姿は似ているが、なんだろう。まとう空気や声の質が、違うものに思えた。ずいぶんと柔らかな空気をまとっている。これで皇帝になるのか? 少し不安になるのだが。 驚きのあまり固まっていると、殿下が自分の前にある長椅子を示して、「どうぞ、こちらに」 と、声をかけてくる。「し、失礼いたします」 そう、震えた声で答えた後、私は殿下の前にある椅子に近づいた。「おかけください」「はっ」 殿下が座るのを待ってから、私も椅子に腰かける
宮殿の奥には皇帝陛下の私邸。別棟には後宮がある。 後宮は、女性であっても出入りは自由ではないので、私は足を踏み入れたことがない。 女官に案内されたのは、陛下の私邸にある応接室だった。 屋敷の中は甘い、香の匂いで溢れている。 廊下には絵画や美術品が飾られていて、皇帝の財力の大きさを感じさせる。 侍従などがいるはずだが、人の気配を感じなかった。 その意味をすぐに察し、胸の高鳴りを覚えてしまう。 女官は私を応接室に入るように促すと、すぐに背中を向けて去っていく。 私は背筋を伸ばし、扉に声をかけた。「紅雪華《ホ・シュエファ》、参上いたしました」「あぁ、入れ」 そう声が聞こえ、私はぐっと手に力を込めて持ち手を握った。「失礼いたします」 ゆっくりと扉を開けると、外衣を脱いだ陛下か立ち上がってこちらに歩み寄ってくるのが見えた。 私は慌てて中に入り、扉を閉める。 陛下は私の前に立つと、「シュエファ」 と、熱い声で私を呼んで微笑んだ。 香の匂いが、強く香る。「陛下……」「無事でよかった」 安心した声で言った後、手がそっと、私の頬に触れた。 あぁ、陛下がまた私に触れてくださっている。 こんな幸せを私は感じていいのだろうか。 子供の頃、憧れた皇帝陛下。 年を経てもなお、陛下は気高く美しい。 そんな陛下のご寵愛を受けて、もう三年になっていた。「陛下も、お変わりなく」 鎧を着たままなのに、早く脱いで陛下の胸に飛び込みたい。 そんな衝動を抑えて私は陛下に声をかける。「あぁ、俺は変わりないが……少し、問題が起きていて」 と言い、陛下は視線を落として真剣な顔になる。 私がいない、半年の間に何が起きたのか。 戦場に旅立つ前、陛下のご寵愛を受けた日のことを思いだすと身体の奥が熱くなる。「何があったのですか?」「ツァロンの女官が殺された」 淡々と、陛下が告げた言葉に私は衝撃を受けた。 ツァロン殿下。陛下にとって唯一の息子だ。 陛下には十二人の子供がいるが、息子はひとりしか生まれなかった。 この国はそういう国だ。 男がとても生まれにくく、寿命も短い。 「でも、なぜ女官が?」 女官が殺されるなんて理由がわからなかった。何せ、女官の多くは外に孫もいるような年配の女性たちだ。 恨まれることなどあるだろうか。「警告、かも
美しい皇帝のもとで、ひそかに血と陰謀にまみれた事件が起きていた。 ここは、龍虎帝国の宮殿内にある女官たちの寮。 私、雪華が蒼龍《ツァロン》皇太子とその部屋に入ったとき、まず目に飛び込んだのは床に転がる血まみれの死体だった。 年配の女官は腹を大きく切られているらしく、そこから流れ出た大量の血が、床に血だまりを作っている。 虚空を見つめる瞳には、すでに光がない。 室内に漂う濃い血の匂い。 死体を見て、私は思わずぶるっと震えた。 「シュエファさん……壁を」 若き皇太子殿下の怯えたような声を聞き、私は顔を上げて壁を見た。 白い壁に書かれた血の文字。 被害者の血、だろうか。赤黒く変色した血で、こう書かれていた。 『次は、お前だ』 それは警告だろう。お前が誰を指すのか。そんなのひとりしかいないだろう。 何せ殺された女官は皇太子殿下に仕えている女官だから。 「また僕のせいで……」 皇太子殿下の悲痛な呟きが聞こえてくる。 宮殿内で起きた二度目の殺人。 狙いが皇太子殿下なのは確かなようだ。 それが始まったのはずっと以前からだろう。 今から十二年前―― 街は華やかに飾られて、色んな色の服を着た女性たちが歩いてる。 今日は新年。 帝都では、宮殿で新年の一般参賀、っていうのが開かれる。 「シュエファ、はぐれないようにね」 お母様が、私の身体をそっと引き寄せる。 十歳の私には周りの人皆大きくて、埋まってしまいそうだった。 だから私はぎゅってお母様にしがみつく。 私もお母様も、姉妹たちも皆着飾って宮殿へと向かう。 紅の上衣に、薄紅のスカート。お母様が私の髪を結ってくれて、つまみ細工のお花のかんざしをつけてくれた。 皆がおしゃれ、する理由は新年のお祝いで皇帝陛下がおでましになるからだって 私がこの一般参賀に参加するのは初めてだった。 だから今、すっごくドキドキしてるの。皇帝陛下、どんな方なんだろう。 綺麗な皇帝陛下。偉大な皇帝陛下って皆呼んでるから、私、すっごく楽しみなんだ。 私はわくわくしながらお母様たちと一緒に一般参賀の列に並ぶ。 周りにいるのは大人の女性ばかりだった。だからかな、すっごくいい匂いがした。 だってこの国、女の人ばっかりなんだも